ひなた野乃子のブログ

その日その日のつれづれ日記です。竹本祥子、祥で詩を書いています。

飽食(延命あるいはサボタージュより)

飽食

             竹本祥子

 

行き倒れのはずだった

異次元の世界を旅していた

わかい わかい とき だった

 

梨畑のはずれにある

公園のブランコで

ひとり太陽と戯れていた

わたしを射す光は 影をつくり

その陽の暗くなったところを

ずっと見詰めていた

 

ブランコに揺られながら

爪先で土を蹴り

でんき屋の女店主の顔が

たぬき顔だと

母に

言いつけした

あの頃・・・

わたしは

蒼く興奮していた

 

ふやけた輪郭の花の名前を

アンダーバーで強調して

わたしを殺す

殺したわたしを

その花で埋め尽くし

影がなくなった頃を

みはからって

火葬する

 

そんな現実は つよいから

たぬき顔の女店主の

愛想笑いをかりて

質屋に入れる

愛想笑いだから

そのまま流れて

わたしは

自分の灰にまみれる

 

一週間に一度も許された

通院を

化粧箱に入れて

大事にしまうと

通院カードが

折れ曲がって

受付嬢が

新しいのと

取り替えてくれた

わたしは

前のに思いいれがあるから

残念に思ったけれど

また 新しいカードも

いいころあいに

しなびてきた

 

わたしは

あのころ

餓死に 無縁なほど

食べることを

忘れはしなかった